はるをみはる-4

 抱き締めて捕まえてしまいたくなる。もし手を延ばしたら、この子はどうするかな、と思った。ゲームみたいに。本気じゃない、仲睦まじいカップルにヒビを入れたりしたらバチが当たるから。エリナちゃんはちょっと不思議ちゃん系で、筋の通ったことを喋るのが苦手で、笑ってるか眠たそうな顔してるかどっちか。あと、ちょっとしたことでよく泣く。しかも声も出さず、さめざめと。望くんに裏切られたりしたら自殺しちゃうかも。
 あたしは望くんから離れて、ベッドの横のちゃぶ台まで行って座った。
「伊津子さんと広基さんは、おれらの中心じゃないですか」
 望くんは、ボールに箸で卵をチャカチャカかき混ぜながらあたしに言った。
「二人が仲悪くなったりしたらおれらも気軽に集まれなくなっちゃう。そのへんは、おれも困ったなあって正直思います。裕美さんも、それを心配してたんじゃないですかね」
 そうだろうか。
 あたしには、あたしを責めたくてわざと酔っぱらったようにしか見えなかった。「広基さんは間違ってない。ぜんぶ伊津子が悪いのよ。」酔わなきゃ本音が言えないなんて最低。あたしと広基のことなんかよく知りもしないクセに勝手なことを言うのが我慢ならなかった。だからあたしは言ってやった、裕美がいちばん言われたくないことを。「そんなだからいつまでも男ができないのよ!」すると裕美はあたしを引っ掻いた。爪立てて、ほんとにあたしの目を狙ったのだ。野良猫みたいに。
 あんなやつもう親友じゃない。
「派閥を分けたらいいのよ」
 あたしはわざと真剣な顔で言った。
「望くんはどっちにつくの? やっぱ広基か」
「えッ」
 彼の顔が初めて、ちょっと歪んだ。
「……どっちでもないですよ」
 あたしはあわてて言った。
「ごめんね馬鹿なこと訊いて。悪い冗談だったね」
「エリナも心配してますよ。ゆうべ、心配で電話くれたくらいなんですから」
「え、そうなの?」
 全然知らなかった。あたしが寝たあとの話だろうか。わざわざカナダから?
「あたしが泊まってるってこと、まさか」
「言ってません。なんか、言いそびれちゃって」
「言わなくていいのよそんなこと! よかったわ。女は気にするもんだから。変に疑わせたりしたら可哀想よ。エリナちゃんは望くんのこと大好きで、すごく信じてるでしょ。でも、余計な火種はないに越したことないんだからね」

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