はるをみはる-6

 あたしがこんな女だってこと、つき合う前からわかってたはず。あたしは事前にさんざんシグナル送ってたんだから。厄介な女だよ、笑うの下手だし協調性ないよ、好き嫌い激しいし。あなたが好きな人たちをぜんぶ好きになるなんて無理だからね。
 そんな伊津子がいいんだ、広基はそんなふうに言ってくれたっけ。調子のいいこと言っちゃって。結局投げ出すんじゃん。
 でも、いいんだ。あたしといても、笑顔よりも苦しそうな顔の方が多いんだから。どうせあたしはだれも楽しませてあげられない。サービス精神ないから客商売は無理。就職活動も面接で連戦連敗中だ。男が甘えたくなるような母性なんか、あたしのなかのどこを探しても見当たらない。かといってあたしから甘えるのも下手。可愛くすましてることさえできない。あたしは、自分でも呆れるくらい非・癒し系だ。なに系って言えばいいんだろ、ささくれ立ち系?
 裕美の方がよほど癒し系だった。好きな男へのつくしかたは半端じゃない。でもそれが裏目に出てばっかりなのが可哀想だけど。甘えるだけ甘えられたあと、結局重いとかウザいとか言われてフラれるパターンだった。
「伊津子はかっこいいと思う。だれにも媚びないから」
 そんなことを言ってくれたこともあった。去年か、もっと前だったかも。
「だけどあたしは、伊津子の真似してたらだれも相手にしてくれないからね」
 裕美はバカじゃない。あたしが持ってないものを持ってる裕美を、あたしは素直に尊敬してた。なんでも話せる友達ができたのは生まれて初めてだった。生まれつき棘だらけの女なんか相手にしなきゃいいのに、ここまで腰を据えてつき合ってくれるなんてよほどの物好きだ。感謝してた。少し前から、裕美にはよく言われた。
「伊津子は変わったよ。広基さんとつき合ったのがよかったんだね。顔柔らかくなったもん。昔は、話しかけるの怖いときもあったけど」
 ちょっと嬉しかった。たしかに広基のおかげだ。広基のまわりには、自然に人の輪ができた。あたしはできるだけおとなしくして、広基が会わせてくれる優しい顔をした人たちに、せいいっぱいの笑顔を向けてればそれでよかった。こんなに楽しい大学生活が送れるなんて、広基に会う前は夢にも思ってなかった。
 力の抜けた笑いが顔にくっついてる。どうすることもできなかった。いままで、裕美は――あたしを誉めてるように見せながら、実は広基を誉めてただけなんじゃないか。そんな気がしてきた。あたしはおこぼれに預かってただけ……
 気分はどこまでも落ちていく。そんなことをぐるぐる考えてたら、レタスに載ったスクランブルエッグが目の前に出た。手際がいいなあ。いただきまあす、わざと明るく言ってあたしは食べ出す。甘くておいしかった。インスタントのスープを作るためにガスにかけたケトルが沸騰するのを待つあいだ、望くんは腰に手を当ててあたしを見てた。
「伊津子さんって……」

Copyright (c) 2007 Tetsu Sawamura. All Rights Reserved.